回復期における活動性の向上:活動記録と計画によるセルフケア実践法
回復期にある多くの方が、心身のエネルギーの変動や生活リズムの乱れを感じることがあります。これにより、日々の活動量が減少し、それがさらに気分に影響を与えるという悪循環に陥る可能性も考えられます。自宅でできるセルフケアの一つとして、活動記録と計画は、このような状況からの回復を支援する有効な手段となり得ます。
活動記録と計画の意義
活動記録とは、一日の中でどのような活動を、いつ、どれくらいの時間行ったかを記録することです。これに加え、活動中の気分やエネルギーレベルなども記録することで、自身の活動パターンと心身の状態との関連性を客観的に把握することができます。
活動計画とは、記録から得られた気づきを基に、無理のない範囲で日々の活動目標を設定し、計画的に実行していくことです。これは、生活に構造を取り戻し、活動量を徐々に増やしていくためのステップとなります。
これらの実践は、ご自身のペースで回復を進める上での羅針盤となり、自己理解を深め、達成感を得る機会を提供します。
活動記録の具体的な方法
活動記録は、特別なツールは必要ありません。ノート、手帳、あるいはスマートフォンのメモアプリなど、ご自身が継続しやすいものを選びましょう。
- 記録の開始: まずは一日、または数日間の活動をできるだけ詳細に記録してみます。
- 記録内容:
- 時間帯: 例: 9:00-9:30
- 活動内容: 例: 起床、洗顔、朝食、読書、散歩、テレビ視聴、家事など、具体的に記述します。
- 活動時間: その活動に費やしたおおよその時間。
- 気分の評価: 活動中の気分を簡単なスケールで評価してみます(例: 5段階評価で「1:とてもつらい」から「5:とても良い」、または簡単な感情語で「穏やか」「イライラ」「楽しい」など)。
- エネルギーレベル: その活動を行うのに必要だったエネルギーのレベル(例: 3段階評価で「低」「中」「高」)。
例: | 時間帯 | 活動内容 | 活動時間 | 気分 | エネルギー | | :-------- | :------------ | :------- | :--- | :--------- | | 8:00-8:30 | 起床、身支度 | 30分 | 2 | 中 | | 8:30-9:00 | 朝食 | 30分 | 3 | 低 | | 9:00-9:45 | 読書 | 45分 | 4 | 低 | | 9:45-10:00| 休憩 | 15分 | 3 | 低 |
活動記録から得られる気づき
数日間記録を続けると、ご自身の活動パターンが見えてきます。
- どのような活動をした時に気分が良いか、あるいは気分が低下するか。
- 一日のうちでエネルギーレベルが高い時間帯と低い時間帯。
- 活動量が気分の波とどのように関連しているか。
- 特定の活動(例: 外出、人と話すこと、休息)が心身にどのような影響を与えているか。
これらの気づきは、ご自身の回復に向けた具体的な行動を選択する上で重要な情報となります。
活動計画の具体的な方法
記録から得られた気づきを基に、今後の活動計画を立てます。
- 目標設定: まず、無理なく取り組めそうな小さな目標を設定します。例えば、「一日一回、数分でも外の空気を吸う」「15分だけ好きな音楽を聴く時間を作る」など、達成しやすいことが大切です。
- 活動内容の具体化: 目標となる活動を具体的に決めます。「運動する」ではなく、「近所を10分散歩する」、「部屋で軽いストレッチを5分行う」のように特定します。
- 時間と場所の決定: いつ、どこで行うかをあらかじめ決めておくと、実行しやすくなります。「毎日午前中に、自宅周辺を散歩する」「夕食後に、リビングで音楽を聴く」など。
- 計画の実行と振り返り: 計画通りに活動を実行できたかを確認し、記録と同様にその時の気分やエネルギーレベルを記録します。計画通りに進まなかった場合でも、ご自身を責めるのではなく、何が難しかったのかを冷静に振り返ることが重要です。必要に応じて計画を修正します。
活動記録と計画が回復に役立つ理由
この実践は、主に以下の点で回復を支援すると考えられています。
- 客観的な自己理解: 漠然としたつらさだけでなく、具体的な活動と気分の関連をデータとして捉えることで、自身の状態を客観的に理解する助けになります。
- 達成感と自己効力感の向上: 小さな計画でも実行し、記録することで、「できた」という経験を積み重ねることができます。これは自信につながり、次への一歩を踏み出す勇気を与えます。
- 生活リズムの安定: 計画的に活動することで、日々の生活に一定のリズムが生まれます。これは睡眠や食事といった基本的な生活習慣の安定にも寄与し、心身の回復を支えます。
- 問題への対処: 活動記録から困難を感じる特定の状況や活動が見つかれば、それらを避ける、あるいは代替の活動を見つけるといった具体的な対処法を検討できます。
実践上のポイントと注意点
- 完璧を目指さない: 最初から全ての活動を記録したり、立てた計画を100%実行したりする必要はありません。できる範囲で、ご自身のペースで取り組むことが最も重要です。記録を忘れた日があっても気にしないようにしましょう。
- 無理な計画は立てない: 特に回復期においては、エネルギーレベルに波があることを理解し、休息時間も計画に含めるなど、ゆとりのある計画を立てることが大切です。
- 結果を過度に評価しない: 計画を実行したのに気分が良くならなかったとしても、それは失敗ではありません。単に「今回はこうだった」という事実として受け止め、次の計画の参考にします。
- 支援者との共有: 記録や計画について、必要であれば医療機関の担当者や信頼できるご家族、支援者と共有することも有用です。客観的な視点からのアドバイスが得られる場合があります。
継続のヒント
活動記録や計画は、継続することでより効果が期待できます。
- 記録方法を工夫する: 続けるのが難しい場合は、記録する項目を減らしたり、好きな色のペンを使ったり、かわいいノートを使ったりするなど、記録自体を負担に感じないような工夫をしてみましょう。
- 活動の選択肢を増やす: 楽しいと感じる活動や、過去に興味があった活動などをリストアップしておき、計画に取り入れられるように準備しておくと良いかもしれません。
- ご褒美を設定する: 小さな目標を達成したら、ご自身にご褒美を用意するのもモチベーション維持に繋がります。
まとめ
活動記録と計画は、回復期における心身の状態を理解し、主体的に回復プロセスに関わるための有効なセルフケアツールです。ご自身のペースで、無理なく日々の生活に取り入れていくことで、活動性の向上や生活リズムの安定、そして心の状態の改善へとつながることが期待できます。この実践が、回復への一助となれば幸いです。