回復期における不安な気持ちとの付き合い方:自宅で試せる簡単な練習法
回復期における不安と向き合う:自宅での簡単な練習法
回復期には、心身の回復とともに、様々な感情と向き合う機会が増えます。特に不安な気持ちは、先行きの見通しが立ちにくい状況や、再び体調を崩すことへの懸念などから生じやすく、多くの方が経験される自然な感情の一つです。しかし、不安が強すぎたり、特定の状況や思考を過度に避けたりすることで、日常生活に支障が出たり、回復の妨げになったりする場合もあります。
不安な気持ちは、完全に消し去ることは難しい場合が多く、またそれが全て悪いわけでもありません。大切なのは、不安をなくすことではなく、不安な気持ちを抱えながらも、ご自身のペースで生活を再構築していくための、「不安との付き合い方」を学ぶことです。自宅でできる簡単な練習を通して、不安な状況や思考に対するご自身の反応を理解し、少しずつ慣れていくことが、回復期の安定につながると考えられています。
この記事では、回復期にある方が自宅で取り組める、不安な気持ちとの付き合い方を学ぶための簡単な練習法をいくつかご紹介します。
なぜ不安な状況や思考に「慣れる」練習が有効なのか
私たちは、不安を感じる状況や思考に直面すると、それを避けようとしがちです。例えば、人混みが怖いと感じる方は外出を控えたり、失敗するのではないかという不安な思考が浮かぶと、新しい行動を諦めたりすることがあります。このような「回避行動」は、一時的に不安を和らげる効果があるため、繰り返されやすくなります。
しかし、回避行動を続けると、不安を感じる状況や思考に対する耐性が育まれず、「やっぱり怖い」「自分にはできない」という思い込みが強化されてしまい、かえって不安の悪循環に陥ることがあります。
ここでご紹介する練習法は、不安な状況や思考を段階的に経験したり、それらとの向き合い方を変えたりすることで、不安を感じる反応を和らげ、不安があっても行動できるという感覚(自己効力感)を高めることを目指します。これは、専門的な治療法である曝露療法や認知行動療法における考え方を、自宅で安全に取り組める形にアレンジしたものです。
自宅で試せる簡単な練習法1:不安な状況を想像する練習
この練習は、実際に不安を感じる状況に身を置くのではなく、安全な自宅でその状況を「想像する」ことから始めます。目的は、不安を伴う状況のイメージに段階的に慣れることです。
準備
- リラックスできる、誰にも邪魔されない静かな環境を選びます。
- ご自身が不安を感じる状況をいくつかリストアップし、それぞれについて0点(全く不安を感じない)から10点(これ以上ないほど強い不安を感じる)の11段階で不安の強さ(主観的な感覚)を評価します。
- リストを不安の弱いものから強いものへと並べ替えます。これが練習の「階段」となります。最初は不安レベルが2〜3程度の状況から始めるのがおすすめです。
手順
- 椅子に座るか横になるかして、楽な姿勢でリラックスします。簡単な呼吸法(例:ゆっくりと鼻から息を吸い、口から長く吐く)を取り入れても良いでしょう。
- 不安レベルの最も低い項目を選び、その状況をできるだけ具体的に想像します。五感を使ってイメージを鮮明にしてみてください。例えば、「近所のコンビニに一人で行く」という状況であれば、店の外観、店内の様子、聞こえる音、感じる空気などを想像します。
- 想像を続ける中で、不安を感じるかもしれません。その不安から逃げようとせず、ただその感覚に注意を向けます。不安を感じる自分自身を観察するようなイメージです。
- 不安の強さがピークに達した後、時間とともに少しずつ和らいでいくのを待ちます。不安レベルが半分程度になる、あるいは許容できるレベルになったら、ゆっくりと想像を終えます。
- この練習を繰り返し、最初の項目の不安が十分に和らいだら、次の不安レベルの項目へと進みます。焦らず、ご自身のペースで進めることが重要です。
ポイント
- 一度の練習時間は5分から15分程度に留めましょう。
- 想像しても不安を全く感じない場合は、もう少し不安レベルの高い項目を選んでみてください。
- 練習中に不安が非常に強くなり、耐えられないと感じたら、すぐに中断しても構いません。
自宅で試せる簡単な練習法2:不安な思考を客観視する練習
不安な気持ちは、しばしば不安な「思考」と結びついています。「〜になったらどうしよう」「きっと失敗するに違いない」といった思考が頭の中を巡り、それがさらに不安を募らせることがあります。この練習は、そうした不安な思考を「事実」としてではなく、「単なる思考」として捉え、距離を置くことを目指します。
準備
- 静かで落ち着ける場所を選びます。
- 特別な準備は必要ありませんが、必要であればメモを取る準備をしても良いでしょう。
手順
- リラックスした姿勢で座るか横になります。
- 心の中に不安な思考が浮かんでくるのを待ちます。
- 不安な思考に気づいたら、それを心の中で「〜と考えた」という形で言葉にしてみます。例えば、「また具合が悪くなるかもしれない」という思考が浮かんだら、「また具合が悪くなるかもしれない、と考えた」と心の中で唱えます。
- あるいは、思考をあたかも目の前のスクリーンに映し出された文字や、頭上を流れる雲、あるいは駅から出発する電車のようにイメージし、それが通り過ぎていくのを観察します。思考の内容に深く入り込まず、ただ「思考がある」という状態を客観的に見つめます。
- 思考を評価したり、良い・悪いを判断したり、打ち消そうとしたりする必要はありません。ただ、それが「思考」であると認識し、客観的に観察します。
ポイント
- これは思考を止める練習ではありません。思考は自然に浮かんできます。大切なのは、思考の内容に巻き込まれず、それが単なる心の働きであると認識することです。
- 最初は難しいと感じるかもしれません。繰り返し練習することで、思考と自分自身の間にスペースを作る感覚が掴めてきます。
これらの練習がなぜ役立つのか
これらの簡単な練習は、脳が新しい学習をすること、特に不安に対する反応パターンを変化させることにつながると考えられています。不安な状況や思考に繰り返し触れることで、それが必ずしも危険ではない、あるいはたとえ不安を感じても対処できるという経験を積み重ねることができます。また、思考を客観視する練習は、頭の中で起きていること(思考)と現実を区別する力を養い、不安な思考に振り回されにくくなることを目指します。これらの練習を通して、ご自身の回復力が高まり、より穏やかな日常生活を送るための一助となることが期待できます。
実践上のポイントと注意点
- 体調を最優先に: 体調が優れない日や、気分が非常に落ち込んでいる時には無理に行わないでください。
- 小さなステップから: 特に不安な状況を想像する練習では、必ず不安レベルの低い項目から始め、ご自身のペースでゆっくり進めてください。決して無理はせず、少しでも負担に感じたら中断しましょう。
- 完璧を目指さない: これらの練習は訓練であり、すぐに劇的な効果が得られるとは限りません。効果の感じ方には個人差があります。継続することが大切ですが、結果にこだわりすぎず、練習に取り組んだこと自体を肯定的に捉えましょう。
- 不安が強すぎる場合: 練習中に不安がコントロールできないほど強くなったり、練習後も強い不安が続いたりする場合は、無理せず中断し、主治医や精神科ソーシャルワーカーなどの専門職にご相談ください。
- 専門家への相談: これらの練習は、回復期におけるセルフケアの一環として提案されるものですが、医学的な診断や治療に代わるものではありません。ご自身の状態について不安がある場合は、必ず専門家にご相談ください。
継続のためのヒント
- 練習の記録: 練習を行った日時、内容、その時の不安レベル(練習前と後)、気づいたことなどを簡単に記録しておくと、ご自身の変化を把握しやすくなります。
- 肯定的なフィードバック: 小さな成功や変化も見逃さず、ご自身を肯定的に捉えましょう。「今日は少しだけ長く想像できた」「不安な思考に気づけた」など、できたことに注目することが継続のモチベーションにつながります。
- 練習時間の確保: 日々の生活の中に、短時間でも良いので練習に取り組む時間を意識的に設けるようにします。
まとめ
回復期における不安な気持ちとの付き合い方を学ぶことは、穏やかな日常を取り戻すための重要なステップの一つです。自宅でできる簡単なイメージ練習や思考の客観視といった練習法は、ご自身のペースで不安に慣れ、それを受け流す力を養うための一助となる可能性があります。焦らず、ご自身の体調や気持ちに寄り添いながら、できることから少しずつ取り組んでみてください。ご自身の回復力を信じ、一歩ずつ進んでいくことを応援しています。