回復期における心の整理:書くこと(ジャーナリング)によるセルフケア実践法
はじめに
回復期には、自身の内面と向き合い、様々な感情や思考を整理することがセルフケアの一環として重要となります。この時期は、体調だけでなく心の状態も不安定になりやすく、過去の出来事や将来への不安、現在の感情などが入り混じり、混乱を感じることも少なくありません。
そうした心の動きを整理し、自己理解を深めるための有効な手段の一つに、「ジャーナリング」(書くこと)があります。ジャーナリングは、特別な技術や道具を必要とせず、ご自身のペースで自宅で手軽に実践できるメンタルケアの方法です。本記事では、回復期におけるジャーナリングの意義と、具体的な実践方法についてご紹介いたします。
ジャーナリングとは
ジャーナリングとは、特定の形式にとらわれず、心に浮かんだことや考えたこと、感じたことなどを自由に書き出す行為です。日記のように日々の出来事を記録するだけでなく、感情や思考の動きに焦点を当てて内面を探求するツールとしても用いられます。
書くという行為を通して、曖昧だった感情や考えが形になり、客観的に捉えることができるようになります。これにより、自身の心の状態をより深く理解し、混乱を整理する手助けとなることが期待できます。
回復期にジャーナリングが推奨される理由
回復期においてジャーナリングが有効とされる理由には、いくつかの側面があります。
- 感情の可視化と受容: 回復期には、抑うつ感、不安、焦り、喜び、平穏など、様々な感情が揺れ動くことがあります。これらの感情を言葉にして書き出すことで、ご自身の感情のパターンに気づきやすくなり、それを否定せず受け入れる一歩となります。
- 思考の整理: 頭の中で堂々巡りしてしまう考えや、まとまらない思考を書き出すことで、考えが整理され、冷静に状況を捉え直すきっかけとなります。
- ストレス軽減: 心の中に抱え込んでいる悩みやストレスを紙の上に「解放」することで、精神的な負担が軽減されることが期待できます。
- 自己理解の深化: なぜそう感じるのか、なぜそう考えるのかといった内面への問いかけを通じて、ご自身の価値観や傾向をより深く理解することにつながります。
- 問題解決への示唆: 複雑に絡み合った問題も、書き出すことで要素が分解され、解決の糸口が見つかることがあります。
自宅で始めるジャーナリング実践方法
ジャーナリングを始めるにあたって、準備は非常にシンプルです。
用意するもの
- ノートまたは紙
- ペン
- (必要に応じて)落ち着ける場所と時間
基本的な手順
- 時間と場所を決める: ご自身がリラックスできる時間帯(朝起きた後、夜寝る前など)を選び、落ち着いて書ける場所を確保します。毎日同じ時間でなくても構いません。
- 書く内容を決める(または決めない): 何について書くか、テーマを決めても良いですし、何も決めずに心に浮かんだことを自由に書き出しても構いません。
- 書き始める: 深呼吸をしてリラックスし、ペンを手に取ります。頭の中で考えていること、感じていること、疑問に思っていることなどをそのまま書き出します。文法や誤字脱字は気にせず、思考の流れに沿って書くことが重要です。
- 区切りをつける: 時間を決めて書く場合(例: 10分間)はタイマーを使っても良いでしょう。書き終えたら、書いた内容を読み返してみたり、そのままにしておいたり、ご自身の好みに合わせて対応します。
回復期におすすめのジャーナリングテーマ例
- フリーライティング: 特定のテーマを設けず、今、頭の中で考えていることをひたすら書き出す方法です。「今感じていることは〇〇だ」「なぜか今日は△△について考えている」など、思考や感情の赴くままに書きます。
- 感情の記録: その日やその時に感じた感情に焦点を当てて書き出します。「今、〇〇という感情を感じている。それはなぜだろうか」「この感情は体のどこに感じるか」など、感情の名前やその感情を伴う出来事、体の感覚などを詳細に記述します。
- 感謝の記録: 感謝していること、ありがたいと感じたことをいくつか書き出します。大きなことから小さなことまで、日常の中に感謝できる点を見つける練習になります。
- ポジティブな出来事の記録: その日にあった良かったこと、うまくいったこと、楽しかったことなどを記録します。回復期は否定的な側面に目が向きやすくなることがありますが、意識的に肯定的な側面に焦点を当てることで、心のバランスを取りやすくなります。
- 身体感覚の記録: 体の調子や感覚に焦点を当てて書き出します。「今日は体が重い」「朝より少し楽になった気がする」「特定の場所に痛みや違和感がある」など、身体の状態を客観的に記録します。これは、心と体のつながりを理解する上で役立ちます。
実践上のポイントと注意点
- 完璧を目指さない: 毎日書く必要はありませんし、綺麗に書く必要もありません。気が向いた時に、書ける量だけ書くという気軽な姿勢が大切です。
- 批判せず受け止める: 書いた内容に対して、良い悪いの判断を下したり、ご自身を批判したりしないように心がけましょう。ただ「今そう感じているのだな」「そう考えているのだな」と、ありのままを受け止める練習です。
- プライバシーの確保: 書いた内容は非常に個人的なものです。安心して書けるよう、ノートの管理には十分にご注意ください。
- ネガティブな感情に囚われすぎない工夫: どうしても辛い感情や考えばかりを書いてしまい、かえって落ち込んでしまう場合は、書く時間を短くする、ポジティブなテーマもバランス良く取り入れる、書いた後に少し体を動かすなど、気持ちを切り替える工夫を取り入れてみてください。どうしても辛い場合は、無理にジャーナリングを続けず、信頼できる支援者にご相談ください。
- 書くこと以外の選択肢も持つ: ジャーナリングはあくまで一つの方法です。全てを解決するものではありません。無理だと感じたり、他の方法が合っていると感じたりする場合は、別のセルフケア方法を検討することも大切です。
継続のヒント
ジャーナリングを習慣にするためには、いくつかの方法があります。毎日決まった時間に数分だけ行う、書く場所を決める、お気に入りのノートとペンを用意するなど、ご自身が続けやすい工夫を見つけてください。書いた内容を後で読み返すと、ご自身の変化や成長に気づくこともあり、継続のモチベーションにつながることがあります。
まとめ
ジャーナリングは、回復期における心の整理、感情との向き合い方、そして自己理解を深めるための有効なセルフケアツールです。自宅で手軽に始められ、ご自身のペースで実践できます。
もちろん、ジャーナリングは医療行為や専門的な治療の代替となるものではありません。しかし、日々の生活の中でご自身の内面と丁寧に向き合う時間を持つことは、回復のプロセスを支える一助となることが期待できます。
ご自身の回復段階や体調に合わせて、無理のない範囲でジャーナリングを取り入れてみられてはいかがでしょうか。