回復期における思考のリフレーミング:自宅で視点を変える訓練
回復期における思考のリフレーミング:自宅で視点を変える訓練
回復期においては、過去の経験や現在の状況について、特定の考え方や感情に囚われやすくなることがあります。時には、困難な出来事に対してネガティブな視点ばかりに目が向き、気持ちが沈んだり、立ち止まってしまったりすることもあるかもしれません。
このような時に役立つ可能性があるのが、「リフレーミング」という考え方です。リフレーミングは、ある出来事や状況、あるいは自分自身に対する見方(枠組み、フレーム)を変えることで、そこから受ける意味合いや感情的な影響を変化させる訓練です。これは、問題そのものを変えるのではなく、それに対する自分の捉え方を変えることに焦点を当てます。
この文章では、回復期におけるリフレーミングの基本的な考え方と、ご自宅で手軽に実践できる簡単な訓練方法をご紹介いたします。これは、ご自身の思考パターンに気づき、より多様な視点を持つためのセルフケアの一つとして取り入れていただくことを想定しています。
リフレーミングとは何か
リフレーミング(Reframing)とは、「再び枠にはめる」という意味です。私たちの経験や出来事は、どのような「枠組み」、すなわちどのような視点や解釈を通して見るかによって、その意味や感じ方が大きく変わります。
例えば、雨の日を「外出が億劫になる嫌な日」と捉えることもできますが、「植物が潤う恵みの雨」「家でゆっくり過ごす良い機会」と捉え直すこともできます。同じ雨という出来事でも、枠組みを変えることで、ネガティブな感情から別の感情へと変化させることが可能になります。
リフレーミングは、認知行動療法(CBT)などのアプローチでも用いられる考え方であり、私たちの思考パターンに柔軟性をもたらすことを目指します。
回復期におけるリフレーミングの目的と期待される効果
回復期においてリフレーミングを実践することには、いくつかの目的と期待される効果があります。
- 感情的な負担の軽減: ネガティブな出来事や思考に対する捉え方を変えることで、それに伴う不安や落ち込みといった感情的な負担が軽減されることが期待できます。
- 問題解決への柔軟なアプローチ: 一つの問題に対して複数の視点を持てるようになると、固定観念に囚われず、より建設的な解決策を見つけやすくなる可能性があります。
- 新たな気づきや学びの獲得: 困難な経験の中にも、成長や学びにつながる側面を見出すことができるかもしれません。
- 回復過程における自己効力感の向上: 自分の思考パターンを自ら調整できるという感覚は、回復への取り組みに対する自信につながることがあります。
リフレーミングは、あくまで考え方の訓練であり、現実を無視したり、無理にポジティブになろうとしたりするものではありません。多様な視点を持ち、状況に対してより適切で建設的な反応を選択できるようになることを目指します。
自宅でできる簡単なリフレーミングの実践方法
ここでは、紙とペン、あるいはスマートフォンのメモ機能などを使って、ご自宅で簡単にできるリフレーミングのステップをご紹介します。
準備するもの:
- 紙とペン、またはメモ機能のあるデバイス
- 静かで落ち着ける場所
実践ステップ:
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問題となる思考や状況を特定する:
- 最近経験した出来事や、よく考えてしまうことの中で、特にネガティブな感情を引き起こすものを選んでみましょう。
- 例:「あの時の失敗のせいで、自分は何もできない」「人からどう思われているか不安で仕方ない」「回復がなかなか進まないのは、自分の努力が足りないからだ」など、具体的で、ご自身が強く感じている思考や状況を取り上げます。
- 紙の上部に、その思考や状況を簡潔に書き出します。
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現在の枠組み(ネガティブな解釈)を記述する:
- ステップ1で書き出した思考や状況について、ご自身が現在どのように捉えているか、ネガティブな感情の原因となっている解釈を具体的に記述します。
- 例:「この失敗は私の無能さを示している」「人からの評価が全てだ」「私は怠け者だ」など。
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他の可能性のある枠組みを探す:
- ステップ2で記述した現在の枠組み(ネガティブな解釈)に対して、異なる角度からの見方を探します。以下の質問をご自身に問いかけてみることが助けになります。
- この出来事の他の側面は何だろうか?(例:失敗から学べたことは? 次に活かせる点は?)
- この状況を別の誰か(信頼できる友人や専門家など)が見たら、どう言うだろうか?
- 長期的な視点で見ると、この出来事の意義は変わるだろうか?(例:1年後、5年後にどう見えるか?)
- この状況には、何かポジティブな側面や恩恵は全くないだろうか?(たとえ小さくても)
- 自分がコントロールできることと、できないことは何だろうか?
- この状況から得られる、個人的な成長や強みは何だろうか?
- この出来事を通して、他者への共感が深まることはないだろうか?
- これらの質問に対する答えを、ステップ2の記述の下に箇条書きなどで書き出していきます。最初は難しいかもしれませんが、無理なく思いつく範囲で構いません。
- ステップ2で記述した現在の枠組み(ネガティブな解釈)に対して、異なる角度からの見方を探します。以下の質問をご自身に問いかけてみることが助けになります。
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新しい枠組みで記述し直し、感じ方の変化を確認する:
- ステップ3で見つけた新しい視点の中から、ご自身にとって最も納得感があり、気持ちが少しでも楽になるようなものを選びます。
- 選んだ新しい視点を用いて、最初の出来事や状況をどのように捉え直せるかを、改めて記述してみます。
- 例:「失敗はしたが、その原因を分析できた。次は違う方法を試そう。」「人からの評価は気になるが、自分の価値はそれだけではない。自分の良いところにも目を向けよう。」「回復には時間がかかるものだと理解できた。焦らず、小さなステップを大切にしよう。」
- この新しい記述を読んで、最初に抱いていた感情や考え方に変化があるかを確認します。劇的な変化がなくても、少しでも視点が変わったり、気持ちが軽くなったりすれば、それがリフレーミングの効果と考えられます。
実践上のポイントと注意点
- 無理強いはしない: リフレーミングは、無理にポジティブになろうとするものではありません。どうしてもネガティブな見方しかできない時や、感情が強い時には、無理に行わず、まずは気持ちを受け止めることに集中する方が良い場合もあります。
- 多様な視点を持つ訓練: これは、一つの出来事には様々な見方があることを学ぶ訓練です。必ずしも「正解」の捉え方があるわけではなく、ご自身にとって建設的で、次に繋がるような視点を見つけることが目的です。
- 否定的な感情を無視しない: リフレーミングは、否定的な感情や考えを否定するものではありません。それらを認識した上で、別の視点も加えて全体像を捉えようとするものです。
- 困難な場合は専門家に相談を: ご自身一人での実践が難しい場合や、かえって苦しくなるような場合は、一人で抱え込まず、医師や心理士、精神科ソーシャルワーカーなどの専門家に相談することをお勧めします。専門家は、より体系的なリフレーミングの方法や、ご自身の状況に合わせたサポートを提供することができます。
継続のためのヒント
リフレーミングは、一度行えば全てが変わる魔法のようなものではありません。繰り返し練習することで、思考の癖に気づきやすくなり、多様な視点を持つことが自然になっていきます。
- 習慣化する: 毎日決まった時間に数分だけ行う、特定の状況(例:朝起きた時に感じるネガティブな気持ち、日中の小さな困りごとなど)に限定して試すなど、ご自身のペースで習慣化を目指してみましょう。
- 記録を活用する: リフレーミングを行った出来事や新しい視点を記録しておくと、後で見返した際に、ご自身の変化に気づきやすくなります。
- スモールステップで: 最初は簡単な出来事から試すなど、無理のない範囲で始めることが大切です。
まとめ
回復期における思考のリフレーミングは、ご自身の考え方のパターンに気づき、出来事や状況に対してより柔軟で多様な視点を持つための有効な訓練の一つです。自宅で手軽にできるこの訓練は、感情的な負担を軽減し、回復への道を歩む上で役立つ可能性があります。
無理のない範囲で実践を続け、ご自身にとって心地よい視点を見つける助けとしていただければ幸いです。ご自身のペースを大切にしながら、回復への一歩一歩を着実に進んでいきましょう。