回復期における自分への肯定的な気づき:感謝と強みを見つけるセルフケア
はじめに
回復期において、心の安定と共に重要となるのが、自分自身への肯定的な感覚を取り戻し、育んでいくことです。病気や困難な経験を経て、自信を失ったり、自分を否定的に捉えがちになったりすることは少なくありません。このような時、自宅で手軽に実践できるセルフケアを通じて、自分への肯定的な気づきを促し、自己肯定感を少しずつ育んでいくことが回復を支援する上で役立つと考えられています。
この記事では、回復期にある方がご自宅で取り組める、自己肯定感を育むための二つの具体的なアプローチ、「感謝の気づき」と「自分の強みを見つける」方法についてご紹介します。これらは専門的な訓練というよりは、日々の生活の中で意識的に行う簡単な練習であり、継続することで心の状態に良い影響を与えることが期待できます。
回復期における自己肯定感の重要性
自己肯定感とは、「ありのままの自分を肯定的に受け入れられる感覚」を指します。回復期においては、過去の経験からくる自己否定感や、現在の状況に対する不安から、自己肯定感が低下しやすい傾向があります。自己肯定感が低い状態が続くと、新しい活動への挑戦が億劫になったり、人間関係において消極的になったりすることがあります。
一方で、自己肯定感が高まるにつれて、自身の価値を認め、困難に対しても前向きに取り組むエネルギーが湧いてきやすくなります。これは、回復期における社会参加や、主体的な生活再建にとって重要な要素となります。
自宅でできる実践方法
1. 感謝の気づきを習慣にする
感謝の気づきとは、日常生活の中で当たり前だと思っていることや、小さな良い出来事に対して意識的に感謝する機会を持つことです。これは、自分が一人で生きているのではなく、様々な支えの中で存在していることに気づき、他者や環境との繋がりを感じることを通じて、自己肯定感や幸福感を高める効果が期待できます。
なぜ感謝が自己肯定感につながるのか
感謝の気持ちを持つことは、脳の報酬系を活性化させ、ポジティブな感情を増やし、ストレスを軽減することが研究で示唆されています。また、感謝の対象に目を向けることは、不足しているものやネガティブな側面に囚われがちな思考パターンから離れ、既に持っているものやポジティブな側面に焦点を移す助けとなります。これにより、自分自身の状況や存在価値を肯定的に捉え直すきっかけとなり得ます。
具体的な実践手順:感謝リストまたは感謝日記
- 準備するもの: ノートやメモ帳、ペン、またはスマートフォンのメモアプリなど。
- 方法:
- 毎日、寝る前や朝起きた後など、時間を決めて静かな環境で座ります。
- その日あったことや、自分の周りにあるもので、感謝できることを3つから5つ書き出します。
- 大きな出来事でなくても構いません。「美味しい食事ができた」「気持ちの良い天気だった」「誰かが挨拶してくれた」「体の痛みが少し和らいだ」など、些細なことでも大丈夫です。自分自身のことに関する感謝(例:「今日は頑張って散歩に行けた」「自分のペースで休めた」)でも構いません。
- なぜそれに感謝できるのか、簡単に理由を付け加えるのも良いでしょう。
- 推奨頻度: 毎日続けるのが理想的ですが、週に数回から始めても良いです。
- ポイント: 量よりも質を重視し、一つ一つの感謝について、その時の感覚や気持ちを少し味わうように意識してみてください。
2. 自分の強みを見つける
自分の強みとは、得意なこと、人から褒められること、困難な状況で役立った自分の良い特性など、ポジティブな側面を指します。回復期には、病気や困難によって「できなくなったこと」に焦点が向きがちですが、意識的に「できること」や「持っている良さ」に目を向けることで、自分には価値があるという感覚を取り戻す助けとなります。
なぜ強みを見つけることが重要なのか
自分の強みを認識し活用することは、自信の向上、困難への対処能力の向上、そして幸福感の増加に繋がると考えられています。自己理解が深まり、自分にはポジティブな側面があるという確信が、自己肯定感を内側から支える基盤となります。
具体的な実践手順:強み発見ワーク
- 準備するもの: ノートやメモ帳、ペン。
- 方法:
- 静かに一人になれる時間と場所を確保します。
- 以下の質問について考え、思いつくことを自由に書き出します。
- 過去に何かを達成した時、どんな自分の良いところが役立ちましたか?(大きなことでなく、日々の小さな成功でも構いません。)
- 友人や家族から、どんなことで感謝されたり、褒められたりすることがありますか?
- 困難な状況に直面した時、どのように乗り越えてきましたか?その時、どんな自分の良い特性が役立ちましたか?(例:粘り強さ、冷静さ、ユーモアなど)
- 他の人のどんな良いところを素敵だと思いますか?それは自分にも少しは当てはまりそうですか?
- 人から「〇〇さんらしいね」と言われるのは、どんな時ですか?その時のあなたの良い特性は何ですか?
- 何も制約がないとしたら、あなたが人や社会のために貢献できると思うことは何ですか?それはあなたのどんな強みから来ていると思いますか?
- 書き出した中から、繰り返し出てくるテーマや、自分でも「これは自分の良いところかもしれない」と感じるものをいくつかピックアップします。
- 推奨頻度: 初回はじっくり時間を取って行い、その後は月に一度など、定期的に見直したり、新しい強みを探したりすると良いでしょう。
- ポイント: 完璧な答えを探す必要はありません。思いつくままに書き出すことを楽しんでください。また、客観的に自分を見るのが難しい場合は、信頼できる人に「私の良いところや強みは何だと思う?」と聞いてみるのも有効です。
実践上のポイントと注意点
- 無理なく、小さなステップで: 最初から完璧を目指す必要はありません。できることから、無理のない範囲で始めてみてください。毎日続けるのが難しければ、週に数回でも効果は期待できます。
- 結果を急がない: 自己肯定感は一朝一夕に高まるものではありません。継続することが大切です。すぐに効果を感じられなくても、自分を責めないでください。
- 困難な時は休む勇気を: 体調が優れない時や、気分が乗らない時は、無理に実践する必要はありません。休むことも大切な回復のプロセスです。
- ネガティブな感情も受け入れる: ポジティブな側面に目を向ける練習ですが、ネガティブな感情を無視したり否定したりする必要はありません。自己肯定感は、ネガティブな側面も含めた自分を受け入れることから生まれます。
- 専門職への相談: これらのセルフケアは、医療や専門的な支援に取って代わるものではありません。もし困難さが大きい場合や、気分が強く落ち込むような場合は、迷わず主治医や精神科ソーシャルワーカーなどの専門職に相談してください。
継続のヒント
これらの実践を習慣にするためには、決まった時間に行う、他の習慣(例:歯磨き後、寝る前)と組み合わせる、目に見える場所にノートを置くなどの工夫が役立ちます。また、書き出した感謝リストや強みリストを時々見返すことで、モチベーションを維持しやすくなります。
まとめ
回復期における自己肯定感を育むことは、より自分らしい人生を再び歩み始めるための大切な一歩です。「感謝の気づき」と「自分の強みを見つける」という二つの簡単な実践は、ご自宅で手軽に取り組むことができ、自分への肯定的な視点を養う助けとなります。焦らず、ご自身のペースで、これらの実践を日々の生活に取り入れてみてください。自分自身の良い側面に目を向け、ありのままの自分を受け入れる旅を、ここから始めてみましょう。